先日の日曜日には、東京都内のホテルで行われた
大手信託銀行のセミナーに参加した。
といっても、お客側としてではなく
セミナーの講師依頼を受けたので、
私としては断る口実を探す意味で見学させてもらった。

セミナーにはたくさんご年配の方々がいらしていた。
数百人規模だ。
信託銀行が狙っているのは、定年退職者層
あることが改めてわかった。
考えてみるまでもなく当然の話なのである。
若い世代は運用できるほど金融資産を持っていないし、
少しでもお金があればレバレッジの効くFXをするだろう。
そして、少ないお金をなくしてしまって、
ふたたび”ゼロ”からスタートする。
少し貯めてはなくし、また貯めてはなくす。
稼ぎが多いわけでもないし、住宅ローンや子供の教育費で
元々少ない給料の残りはなおのこと少なくなる。
それでいて、テレビや車はローンで買わされる。
銀行やサラ金の会社に手数料も払っている。

お金を持たない若年層には、信託銀行は興味などない。

一方、定年退職者はおいしいターゲットになる。
毎年毎年かなりの数の退職者が、莫大な退職金を手にして、
世の中に放り出されてくる。
マイホームを手に入れ、子供は巣立ち、欲しいものの
ほとんど全ては手に入れているはずである。
しかも、今までは会社人間であったため、
お金の運用などことさら考えたこともない。

つまり、投資の初心者となる。
お金は持っているし、お金の使い道も限られている。

信託銀行側からみると、檻から放たれた
まるまるとおいしそうに太った野兎である。


金融機関としては、狙わないわけがない。

「こっちの水は甘いよ、甘いよ」
と誘導してやれば、ほいほいついてくる。
当然である。
檻の外のことは何にも知らないのである。
その道のプロらしき人の話を信用してしまうのも無理はない。


セミナーの講師は、「甘い水」の在りかまで親切丁寧に誘導する。

1.60歳の人の平均余命は83歳。
75歳まで生きた人の余命は11年。
女性は、さらに長生きする。
⇒これからも人生長いですよ。
だからお金の心配をしないといけませんよ。
2.日本の低金利は、これからも続く。
日本の景気は少子高齢化もあり頭打ち。
しかし、海外は株価も金利も高いところはたくさんある。
今は日本より、海外の投信が有利だ。
⇒勉強しないとお金も殖えませんよ。
日本はダメだから海外に限りますよ。
3.野兎が道案内無しに歩いてはいけない。
自分たちが道案内をしてあげるから、ついてきなさい。
⇒海外のことは、私たちに任せなさい。
その道のプロだから安心でしょ。


これで、一丁あがりである。
そして、セミナー参加者の気分を高揚させた後アンケートを書かせる。

  • 現金がいくらあるのか?
  • 保有する不動産は?
  • 家族構成
  • 親の有無
  • 子供の数

これを書かせれば、懐具合を把握できる。


値踏みされるのである。



これでは、ハイハイ商法となんら変わらない。
催眠商法ともいうが、あまり感心できる商売ではない。
開催者側の人間はうじゃうじゃいた。
若い綺麗な受付の女の人や、親切丁寧に会場まで案内するスタッフ。
そして、豪華なパンフレットや綺麗な装丁の資料集。
大変なお金の掛けようである。

もっと言えば、某信託銀行の会社がどこにあるのか?
その所在地や保有する自社ビルの経費も考えたらいい。


誰が賄っていると思うのか?

ご愁傷さまである。
本来、自分のお金なのだから自分の責任の及ぶ範囲で
自分でよく考え自分で行動するべきだ。


なぜ、他人に任せようとするのか?
なぜ、他人に依存しようとするのか?


信託銀行なんて、お金を殖やすプロではない。
字のごとく、野兎からお金を託されるプロなのである。

そして”託”の前に”信”がつく。
”信”は豪華なパンフレット、綺麗なお姉さん、
立派な会社の所在地、綺麗な装丁の資料集が、
その役割を担う。

彼らはとにかくお金を出させることに関しては一流だ。
今回のセミナーを拝見してそう思った。


私のやり方は違う。

「何のためにお金が必要なのか」
「どのくらい、いつまでに必要なのか」
「なぜなのか?どうしてなのか?」


要するに目的を明確に考える作業を徹底的に行う。
すると、運用などしなくていい人も出てくる。
田舎に引っ越して、必要経費を少なく押さえれば
それで十分すぎる人も出てくる。
反面、投資信託どころでは間に合わない人も出てくる。
生活費も確保しなければならない。
夢の実現のためのお金も欲しい。
しかも、残された時間はたくさんあるとは言えない。
こういう人のように、一定の資産を守りながら、
積極運用しなければならない人も出てくる。

要するに、これから何をしたいのか?が、わからないと何も始まらないのである。

私はそこを最も重視する。
大手とは違うのである。
講師依頼は丁重にお断りした。
オオカミには加担したくないからである。
オオカミとウサギの話は、グリム童話か何かにあったと思が、
今回の話は、グリム童話ならぬ投資信託銀行童話とでもしておこう(小笑